土井中照がお送りする「ミラクルワールド=愛媛」のご紹介です。
歴史や民俗、食材、郷土料理、名産品、パワースポット、県民性など、びっくりする情報をお届けします。

獅子文六が体験した南予

カマボコ・鉢盛料理・イリコ

食通でもあった獅子文六は南予のたべものを描写しています。

エソといふ魚で造る南伊予のカマボコは、日本のカマボコ界の王であり、(中略)エソの皮や筋で造ったこの皮竹輪は、カマボコ食ひの大通人をして満足させる、日本無比の超特作的逸品である、といふのである。

大きな鯛の浜焼らしきもの、カマボコや卵焼の口取りらしきもの、ウマ煮らしきもの、和へ物らしきもの、巻鮨らしきもの、ウドンらしきもの十数種に亘る食物が、同数の鉢に盛られてあるやうであった。(中略)それが、この地方の名物、鉢盛料理であった。

イリコというのは、関東地方の煮干し、関西地方のジャコのことである。イワシの小型のを、大釜で煮て、天日で乾燥する」「吸物、味噌汁、その他、一切のダシ用に供するからである。(中略)カツオブシほど、高級な味ではないが、ダシは強く、そして、値段が安い。一般家庭でも、安料理屋でも、これを、欠くことはできない。ことに、ウドン屋の如きは、イリコなしに、商売ができないほどである。

地元の食べ物は地元の人に聞け

文六が残した、たべものに関するエッセイに南予の食が登場します。『飲み・食い・書く』には、「ナマコとタワラゴ」「鉢盛料理」「早春味談」の三編で南予の食を綴っています。

地元で食べる習慣のないナマコを取り寄せ、食べてみると大味だったという体験。豪華さと独特の作法をもつ鉢盛料理は材料の質、量、種に恵まれなければ、料理が成立しないことが描かれています。また、醤油をぶっかける食べ方にびっくりした文六でしたが、食べてみて反省しています。

彼らは実に鮮魚の味をよく知っていた。(中略)そういう微妙な鮮魚の味は、山葵や生姜を用いると、どこかへケシ飛んでしまうというのである。ブッかけは蛮習かも知れないが、醤油のみで食する方が真に鮮魚の味がわかるというのである。

白魚の味に驚いた文六

こんなウマいものは、一生のうちでも、滅多に食えぬ。

と感動し、『食味歳時記』では、旅館の女将が金魚鉢に入れて東京へ持参した白魚を

あの土地風の白魚汁にしたのだが、味は、決して、悪くなかったにしても、あのヌメリの舌触りは、ついに、望むべくもなかった。

と運ぶ途中で息絶えた白魚を残念がっています。

これらの経験から、文六は郷土料理の作法や調理には理由があることを悟ったようです。土地の風習には学ぶことがたくさんあり、

要するに、その土地で食うものを食え。

という感想をもらしています。

風俗にも深い関心を示した文六

この地方の習慣で、若衆宿あるいは青年宿と呼ぶ、一種の合宿制度がある。村の若者たちが、春になって、ある期間を、共に一軒の家で生活し、年長の若者が年下の者に農耕のこと、漁労のことから、村の社会生活、人間生活の指導をする目的を持っていた。(中略)若衆宿を出た者は、一人前の男と見られ、結婚の資格ありとされた。

と『大番』では「若衆宿」を取りあげています。

「若衆宿」は愛媛の各地にあり、祭礼や踊りの世話、地域の警備や救助などをする若衆たちの手で運営されていましたが、今では見られなくなりました。

他の風俗では『てんやわんや』の「夜伽」、『大番』の「ヨバアイ」が記されているのですが、興味のある方は原書におあたりください。あしからず。