早坂暁との出会いと鹿島
北条出身の早坂暁は、大学時代に学生運動にかかわり、東大ポポロ事件で公安当局にマークされた暁は、玉ノ井に潜伏していました。その時、蛇骨湯という銭湯で、昼間の早い時間に体を洗っていた暁に、男が近づきました。「追われているんだろう。おいしいものでもご馳走するよ」と誘ったのが渥美清でした。
それからしばらくして、テレビ局などでシナリオライターと俳優という立場で再会してから、親交を深めました。清は、ことあるたびに「暁さんの田舎に連れて行ってくれ」と頼んだといいます。
それが実現したのが、昭和53年(1987)のことでした。この年から始まるテレビ朝日系列「土曜ワイド劇場」の第1回放送の『渥美清の田舎刑事』シリーズ「旅路の果て」で、清はロケ地の鹿島を初めて訪れました。脚本は地元の北条や鹿島を知り尽くしている早坂暁です。
清は、北条沖400メートルに浮かぶ周囲約1.5キロの小島・鹿島が気に入り、何度も訪れています。ひとりでふらっと島を訪れ、瀬戸内海の風景を眺めるだけで立ち去ることもありました。
鹿島港のすぐ近くに「お遍路が一列に行く虹の中」と刻まれた句碑がありますが、この句の作者は、「風天」。車寅次郎こと「フーテンの寅」を演じた喜劇役者・渥美清の雅号です。
この句は、朝日新聞の週刊誌「アエラ」が主催する平成6年6月6日の「アエラ句会」において「虹」の題で詠まれています。高得点にはなったものの、最高点に与えられる「天」にはな利ませんでした。
昭和60年(1985)からNHKドラマ人間模様の枠で放映された早坂暁脚本の『花ヘんろ』で、清はナレーションを担当しています。タイトルバックで一列になって歩く遍路の画像が流れるのですが、これを句にしたのが「お遍路が一列に行く虹の中」だというのです。
この句碑の6メートルほど後ろに、親友だった暁の「昭和とはどんな眺めぞ花遍路」の句碑が平成26年に建立されています。句碑は、二人の生前のように仲良く並んで、北条の海を穏やかに見つめています。 |