逆さまの儀式
「巳午」では、正月の祝い方が通常とは大きく異なっています。しめ縄は逆さになったものを使い、引っ張った餅を後ろ手で、親族に肩越しで渡します。餅を引っ張って取り分け、搗いた日の餅を焼き、餅に塩をつけて食べるのです。
これらは、現実世界では禁忌とされています。なぜなら、これらきは葬式の後で行われるものばかりだからです。また、黙って餅を食べなければならないところなど、この儀式が死者のためのものであることを示しているようです。
民俗学の巨星・柳田國男は、『餅と心臓』の中で餅の形に触れ「これは人間の心臓の形を、象どっていたものではないか」と書いています。餅は、農作業の前に食べたり、お産を前にした婦人に食べさせることから、人に力を与える、霊力のある神聖な食べ物として重要視されてきました。
霊魂の象徴でもある餅をみんなでちぎって食べるということは、新しい仏さんの魂を親族で分かち合い、咀嚼することで、仏の成仏を願うことでもあるようです。
『古事記』に登場する黄泉比良坂のような死者の世界との境界から、亡くなった人が迷い出てこないようにし、死のけがれと決別して身を清めるのが「巳午」の儀式です。こうして身を清めて、正月の歳徳神を迎えるのです。 |