土井中照がお送りする「ミラクルワールド=愛媛」のご紹介です。
歴史や民俗、食材、郷土料理、名産品、パワースポット、県民性など、びっくりする情報をお届けします。

トラフグとナゴヤフグ

天然フグの宝庫・長浜

愛媛県で、昔から天然トラフグの漁場として知られてているのが大洲市の長浜沖です。一級河川の肱川が注ぎ込むため、餌のプランクトンが豊富で、推進40〜60メートルの浅瀬は、トラフグにとって絶好の産卵地になっています。
天然トラフグを捕らえるのは延縄漁。「幹縄(みきなわ)」と呼ばれる長いロープの先端部に、「枝縄(えだなわ)」と呼ばれる釣り針や疑似餌をつけた複数の短いロープを、10メートル間隔で、のれんのように取り付けます。幹縄の長さは数100メートルから長いものだと100キロを超えるものもあります。フグは鋭い歯を持っているため、切られないように針と糸の間に針金をかましています。

延縄漁は狙った魚だけをピンポイントで収穫することが可能で、獲る魚の量のコントロールもしやすいため漁業資源に対して優しい漁法だといわれています。ただ、網の漁法に比べて時間や手間がかかることが難点でしたが、現在では自動化が進んでいます。
愛媛の天然トラフグのほとんどが松山や下関に出荷され、品質、味ともに都市部の一流料理店から高い評価を得ています。

フグは大昔から食べられており、江戸時代に入るとフグ食は、庶民の間に普及しました。当時、フグは「鉄砲」と呼ばれましたが、これは毒のあるフグを食べても「なかなか当たらない」と「たまには当たる」のふたつの意味があったようです。

明治を迎えると、フグの禁止令が出されますが、伊藤博文はフグの美味しいことを知り、山口県のみにフグを解禁しました。

フグを合法的に楽しむためには、戦後を待たねばなりません。昭和22(1947)年に施行された食品衛生法でフグが食品となり、各都道府県はフグ条例を制定。昭和25(1950)年にフグ調理師試験が発行されるようになって、ようやくフグ料理が食べられるようになったのです。

お客の注文から生まれたフグ料理

住友の企業城下町のイメージが強い新居浜の味の代表格が「ふぐざく」です。細切りにしたフグの身と皮にカワハギの肝を添え、ポン酢とネギを添えます。皮の食感と繊細な甘みを持つフグの身が、甘酸っぱいポン酢と混じりあって食欲をそそります。

「ふぐざく」を考案したのが昭和7(1932)年創業の料亭「波満蝶(はまちょう)」です。昭和14(1939)年、常連客のひとりが手間のかかるフグ刺しを待ちきれず「何でもいいから、噛みごたえのあるものを早く持ってきてくれ」との注文に応え、ぶつ切りの身と皮に酢をかけて出しました。これが人気メニューとなり、皮を刻む音から「ざくざく」と呼んでいましたが、略されて「ざく」となり、のちに「ふぐざく」となりました。

フグの皮は、「皮の湯引き」として食べられますが、毒のあるキモと一緒にする料理は多くありません。他の地方では、「ふぐざく」と注文すると首をかしげられることも多いようです。「ふぐざく」の美味しさは、新居浜だけで味わえということなのでしょう。

尾張名古屋の意味を知ると…

「ナゴヤフグ」とは、ナシフグやショウサイフグのことで、愛媛県や瀬戸内海地方でこう呼ばれます。小型のフグで、身体に梨の表面のような小さい模様があります。トラフグよりも少し脂があるものの、甘さとうま味は遜色ありません。鍋料理やから揚げ、刺身、たたき、塩焼きと、どれもが美味です。

さて、「ナゴヤフグ」と呼ばれるのは、毒を持っていることから、命の「終わり=尾張=名古屋」という意味になります。身は無毒なのですが、皮や内臓に毒があります。愛媛県でフグ中毒が発生するのは、この「ナゴヤフグ」を使うため。「ナゴヤフグ」には毒がないと信じられているのですが、トラフグに負けない毒が内臓には含まれています。ゆめゆめ、「ナゴヤ」ならぬ「オワリ」にならぬよう、ご注意のほど。